企業や学校をはじめ、各種ハラスメントが社会的な問題となっています。この記事では、学校での実習中、成人した学生に対して実際に起きたハラスメント行為を取り上げ、現場の実際を知っていただくとともに被害の軽減や拡大の防止を目指します。
パワーハラスメントとは、役職や立場など社会的な権力や地位を利用した嫌がらせのことをいいます。業務や職務などを超えて、人格や尊厳を傷つける言動を継続的に行い、就労者などの環境を悪化させます。
また、モラルハラスメントは精神的な嫌がらせのことをいい、セクシャルハラスメントは性的な内容を中心とした言動を伴う嫌がらせのことをいいます。
これらを養護実習(養護教諭の免許状取得のために学校現場で実施する実習のこと:教育実習と同義)で散々味わいました。そのおかげで、精神的な意味で環境の悪化を起こし、実習そのものまで質の良くないものとなってしまいました。
守秘義務の範囲内で書かせていただきます。一部表現を変えていますが、起きたことはすべて事実です。10年以上前(投稿日現在)と少し古いお話なので、現在と対比しながらご覧ください。
これから養護教諭を目指す方、特に男性で養護教諭を目指す方々に参考にしていただけますと幸いです。
なお、記事中に出てくるセリフのうち「 」(太字カッコ)部分の言葉は、そのままではコンプライアンス的にアウトなものが多いため、使用できる表現に修正していますのでご容赦ください。
※他の「 」(カッコ)部分も一部修正しています
①遅刻で見せしめ(パワハラ)
ある日のこと―
「明日は7時30分(仮時刻)に来るようになっているけど、あんまり早く来られても困るから、7時30分頃に来てください」
30分近く前乗り込みを考えていた私は、驚きと拍子抜けを同居させたまま、
「7時30分頃で大丈夫ですね」と念を押すように確認すると、
「そう、それでいいよ」というお返事。
“じゃあそれでいいんだな”と思い、真に受けた私は7時30分頃に行きました。
翌朝、腕時計は7時25分(私のは2分進んでいる)。“ばっちり7時30分頃”と思って部屋のドアを開け、教員の顔を見ると…
めっちゃ怒ってますやん(´д`;)
あ、君何遅れてくれちゃってんの!?みたいな顔、ぶすっとした不機嫌な態度。
“えええぇ、めっちゃくそ怒ってはるぅぅ、何でー!?”と思いましたが、当然平謝りですよ。
怒った教員は朝の職員会議で「実習生が遅刻した!」とご報告。
教員も“あらいやだ”と言わんばかりにざわざわ。…でもさぁ、
7時30分頃でいいって言ったのあなたでしょ(`д´)
社会通念で言えば『頃』は前後数分を含みます。それなら、
7時30分までに絶対に来いと言いなさい。
というか遅れてないし。
“頃とは言ったけど、実習生ならもちろん早く来るよな(分かってるよな!)”……そんな行間があったとしても、それは読めません。その可能性を排除するために確認しましたから。
当時は現役ではなく、少ないながらも社会人の経験がありましたので、出た指示に従わないことの方が問題であるという認識でいました。
色々思うところはありましたが、もちろんそんなことは言えません。実習をお願いしている身分なので、何一つ文句を言ってはいけないのです。
日本語をちゃんとして欲しいですね。“頃”は完全な時刻指定には使えないのです。
7分前で遅いというのなら、何分で満足したのでしょうか。10分前くらいは欲しかったかなとか、やはり30分前がよかったかなとか思い返してみても、答えは相手の心の中なのです。
そういうことで怒るのなら、集合時刻の10分前には居るようにしてくださいなどとはっきり指定した方がトラブルも起きませんね。
②年齢相応に扱われない(セクハラ)
養護実習(教育実習)生は21,22歳である。
そんな先入観はありませんか? その年齢が最も多いのは事実です。
お気持ちは分からないでもないですが、経歴や年齢の分かる物を提出しているわけですから、歳相応の扱いをしていただきたかったです。
当時私は20代半ばでした。仕事を辞めて一念発起で飛び込んだのですが、違和感のある扱いを受けました。21も29も一緒だよと言われてしまうと元も子もありませんけどね。
確かに他の現役実習生はヘラヘラしていたりふざけていたりもしましたが、
「学生の気持ちでいては困る」
「成人としての意識が足りない」
「子どもじゃないんだから」
「大学で何を学んできたのか」
などと、一緒くたにされるのがとても嫌でした。
全集中で勉強してきた自負がありますし、そもそも人生を遠回りしているわけですから、真面目に真剣にとにかく全力で学んでいたからです。
厳密に言うと、歳相応に扱わないのはセクハラにあたります。ただし、本人が望んでいれば該当しません。セクハラだ!と声高にいうつもりは全くありませんが、大人として普通に接して欲しかったです。真剣に取り組んでいた分、より屈辱感が増したのです。
教員の権威は年々低下していると言われて久しいですが、逆に言えば昔は今でいうハラスメントが横行していたわけです。当時もその名残の影響か、上から目線の物言いに違和感があったことを覚えています。
正規教員と実習生の関係である前に人対人ですから、年齢の上下に関わらず、お互いを尊重し合いたいものです。年下は未熟なのだから、どんな言い方をしても良いし、どんな理不尽にも耐えなさいという考え方は危険です。
現状を否定するだけではなく、具体的な改善策などを話合う方が教育効果は高くなります。
③存在を否定される(モラハラ・セクハラ)
当時は男性で養護教諭を志す人が相当珍しい時代でした。養護実習を受けていただけでもありがたいことです。そのことはとても感謝をしていました。
しかし、いざ実習が始まると、他の教員(養護教諭を除く)から志ばかりか個人の存在自体を否定するような言葉を浴びせられました。これは今でも忘れてはいませんし、許すことはできません。
「男性が(養護教諭に)なるとは何事だ」
「男性が免許状を取っても意味がない(無駄)」
「何のために実習しているのか分からない」
「養護教諭になる男は○の腐ったような奴だ」
など、かなり辛辣な言葉を浴びました。そういうことを言われる度に、モチベーションがどんどん下がっていくのは自分でもはっきりと分かりました。
こういったことを発言してしまう教員は人としてどうなのかという問題はあります。ですが、今ほどジェンダーに理解のない時代背景を考えれば仕方がないとも言えます。
養護教諭に限らず、マイノリティの立場の人を否定したいという心理は、人間の心に潜んでいるものなのかもしれませんね。
実習生というお願いをする立場ですから、黙って受け止めることしかできませんでした。「やめてください」などと意見できる雰囲気でもありませんし、言ったところで発言を撤回することなどあり得ません。完全なる偏見(決めつけ)を一方的にぶつけてきました。
すべての教員がそうとは言いませんが、少なくとも実習をさせていただいた学校においては、そういう方が何人かいました。例え気に入らない実習生を潰そうとも、身分が守られる訳です。そういう人達の維持のために税金を払っているのではありません。
パワハラなどの相談件数は年々増加傾向にあります。このようなことが現在も起こる可能性があります。ですので、特に男性で養護教諭を目指される方は、お気をつけください。
その一方で、男性の養護教諭も微増ではありますが増加傾向ですので、時代の流れも変わりつつあって以前ほどの強烈な拒否感はないかもしれません。ですが、学校によっても個人によっても反応は様々です。
否定的意見も想定しつつ、自分の信念を貫きましょう。男性養護教諭は、まだ社会的に認知されるレベルにありません。ただ、あまりにもひどい言動があれば、大学に相談したり、音声を保存したりすることで、状況を変えるのも手段のひとつです。
とはいえ、実習をお願いしている側(立場としては下)であることから、そういった行動がとれず、ひたすら耐えるだけになってしまうことが多いのが実態です。
④性別を否定される(セクハラ)
実習が進むにつれ、保健室で色々な対応をすることになります。怪我や体調不良においても様々な訴えがあり、見極めて判断し対応をします。
男性の養護教諭として、対応が難しく、配慮が必要となるのは女性特有の性的な問題です(以下、女性特有の問題とします)。人間は男性にも女性にも特有の性的機能があり役割を与えられています。
女性特有の問題が関係している可能性がある場合で、話しにくそうな様子があれば対応を代わってもらいますし、最初から女性の養護教諭に言いにいく子もいます。もちろん男性であっても気にせず話をする子もいます。
女性特有の問題への対応が終わる度に、女性の養護教諭が言うのです。
「男(性)には【女性特有の問題】の辛さは分からない」
実習期間中、同様の趣旨の言葉を少なくとも6回は聞きました。
この言葉の背景にある意図は、男性には【女性特有の問題】の辛さは分からないから、女性の気持ちは分かる訳がない。だから『男性は養護教諭になるべきではない、向いていない』というものです。
苦虫を噛み潰したような否定的な言われ方をすると、さすがに怒りの感情を抱かずにはいられませんでした。それは、言葉の端々から『養護教諭の世界では「男性は下なんですよ」感』が伝わってくるからに他なりません。
基本的な配置数は一人が多いこと、歴史的に女性が優位であること。すなわち、『養護教諭は女性一人がするもの』という固定観念が存在します。しかも、それに対して固執している印象がありました(当時の話です)。
『女性』『一人』という前提が崩れてしまっては困るわけです。ですので、『女性特有の問題』という名の切り札を男性に対して突きつけるのです。しかも、「分からない」と断定することで、男性側から歩み寄ることさえも拒否しています。
一人しか配置できないから、女性特有の問題に対応するため、女性を配置する意味がある。という理論も理解はできます。でもそれは、一方で男性特有の性的な問題を軽んじていることになります。
「女性には【男性特有の問題】の辛さは分からない」
見事なブーメランになってしまいます。男性にも苦悩はあるのです(ここが社会的に軽んじられているのが重大な問題です)。この理論でいくと、「保健室では男性特有の問題には一切対応しません」となります。ある意味、児童生徒の性別によって対応に差があると明言しているようなものです。
結論としては、『一人配置だと対応が男女平等にならないので、複数配置(女性・男性各1名)を基本とするべきである』となります。
障壁は金銭的な問題だけです。公立の全教員給与を2~3%カットすれば、養護教諭の2名配置(1名増枠)は可能です。今ある物事に疑問を持たなければ、物事を変えることはできません。男女での複数配置が基本になることを願いつつ、情報を発信し続けます。
実習中
①や②は特殊な事例としても、③や④のように志や存在、人格を否定され続けることで、実習に対する意欲は失われていく一方でした。
実習期間の3分の2を経過する頃には、実習に対する意欲がほとんどありませんでした。仕事としての養護教諭は好きだけれど、社会の前に同業者(教諭・養護教諭)がそれを許さないのなら難しいのかもしれないな……そんな気持ちでした。
正直、想定していたものを超える反応があり、ダメージを受けました。仕事を辞めて人生を懸けた覚悟でさえも、耐えきれずに折れかける程です。
負の感情が膨らみ過ぎて、正の感情では補えなくなったため、大学に実習の『辞退』を申し出ました。考えに考えた結果の選択です。返ってきたのは……
「大学の印象が悪くなって、来年度以降の学生に影響が出るので続けてくれないか」
というものでした。大学の主観に立てば、至極真っ当なご意見です。各種ハラスメントの件は伏せて申し出ましたので、このような返事になるのは仕方ありません。
この時点で残り4分の1を切っていたので、大学側の意向に従うことにしました。自分を奮い立たせようと試みますが、実習当初のエネルギーを生むことはできませんでした。やる気がないわけではないのですが、養護教諭になれないだろうという気持ちが強く働いてしまいました。それでも、その時の最善を尽くし、最後まで実習させていただきました。
実習後
このような形で実習を終えましたが、最終的には養護教諭の免許状の取得に至ります。
実習を終えて、実習前の熱意は壊滅状態。養護教諭を目指してもよいのか、将来の方向性に迷いや葛藤が生じていました。かなり大きな渦が心の中に存在していたことをはっきりと覚えています。
ただひとつ良かったのは、そうした現実を自分の感覚として体験できたことです。強く思って、強く願って、ひたすら努力すれば目標は叶うんだという思いを木っ端微塵にしてくれました。何もない状態から、もう一度真剣に考え直す作業は、とても貴重なものでした。当時はとても辛かったですけどね。
絶望に近い感覚はありましたが、それでも諦めることだけは選びませんでした。その時の結論としては、男性養護教諭の社会的理解が高まる日が来ることを信じて努力していこうでした。結果として、その兆しが表れ始めたのは2017年でした。現在は高まり始めつつあるという表現が相応しいでしょう。本格的な高まりには、まだまだ10年単位の時間がかかります。
仕事を辞めるという覚悟をもって養護教諭という世界に飛び込んだわけですが、当時は偏見や差別などがあり社会的にも受け入れられず、相当なりにくい現実がありました。
これから目指される男性の皆さまには、私のような思いをして欲しくはありません。胸を張って自分のやりたいことを言える時代が来ることを願っています。
そんな時代がやって来ても、ひとつだけ忘れないでいて欲しいのは、私たちのような思いをした時代を経て今があること。男性養護教諭という夢を掴んでも、謙虚に感謝を忘れずにいて欲しいです。それが、男性の増加という未来につながっていくからです。
当記事が夢を掴むためのお役に立つことを願っています。応援しています。
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