私が大学で心理学や教育学を勉強していた時の話です。
私が『心理学を専攻している』と分かると、「人の気持ちが分かるの?」とか「考えてること分かるの?」、「どういう心理を読んで今の言葉を発したの?」などと聞かれたことがありました。
心理学を学んだことのない方々にはそのように思われているようです。皆さんの心理学に対する認識はどのようなものでしょうか。
まずは、言葉の整理をしましょう。
心理学とは
心と行動の学問であり、科学的な手法によって研究される。そのアプローチとしては、行動主義のように行動や認知を客観的に観察しようとするものと、一方で、主観的な内面的な経験を理論的な基礎におくものとがある。
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』:心理学
簡単に言えば、心と行動を対象とする学問です。我々人間は脳があり、心というものをもった生き物です。人が人である所以であり、心に生まれた思考や感情に基づいて行動をします。そうした一連の心の仕組みを対象にした学問なのです。
そして、心理学は『基礎心理学』と『応用心理学』に大別されます。
- 基礎心理学:人間がもつ心の仕組みの一般法則を理論的に研究する分野
- 応用心理学:基礎心理学で得られた成果を、実際の生活場面に活用する分野
基礎心理学には、認知心理学、発達心理学、社会心理学、学習心理学、性格心理学、生理心理学などがあります。
応用心理学には、教育心理学、学校心理学、臨床心理学、犯罪心理学、産業心理学、健康心理学、スポーツ心理学などがあります。
現場で子どもと向き合う時は、応用心理学を利用することが多くなりますね。養護教諭時代は、教育・学校・臨床・健康心理学の概念に基づいて行動することが多かったです。
もちろん子どもに限らず、関わる対象によって使用する心理学は異なってきます。メンタルヘルスが叫ばれる時代となりました。心理学は生涯に渡って活用することができます。
心身共に健康でいられるのはありがたいことです。みなさんも心理学を活用して、心を健康に保つことができるようにしたいものですね。
実践の仕方
前の項で挙げた心理学には、原理・原則や理論(以下、理論)などがあります。
改善したいことや困っていることなどがあれば、まずはそれに使えると思われる理論を探します。この時、はっきり原因が分からない場合は自分の仮説で決定しても構いません。
そして、選んだ理論に基づいてアプローチ(行動)します。それで問題が解決すればOKです。解決しない場合は、アプローチした際の反応やそれを踏まえた新たな仮説を立てて、理論を変えるかアプローチの仕方を変えます。
そういうことを繰り返して、問題の解決や改善を目指します。これを誰に対して行うかを書かなかったのは、「相手」だけに限らず「自分」に対してもできるからです。
身近な例をひとつ挙げます。『子どもの勉強について』
「勉強しなさい」と言って子どもが素直に勉強すれば問題解決です。
「勉強しなさい」と何度言っても勉強に取り組む様子がなく、反抗的な態度もみられた。この場合、怒ったり怒鳴ったりという選択肢は消えます(反抗が強化されるだけなので)。
子どもの様子から次の一手を考えます。大人側が落ち着いていることが前提になりますが、「勉強しない理由を聞いてみる」「どうするつもりか聞いてみる」などが考えられます。とにかく話をしましょう。
それで「今日学校で腹の立つことがあったからやらない」とか「学校で疲れたからやらない」などと答えたのなら、話を聞いて「それじゃあやる気も出ないね」と肯定的に受け止めてあげれば良いですし、「今ゲームしてるから、ご飯までにやる」「寝るまでにやる」などと答えたのなら、計画をしていたことを褒めてあげれば良いのです。
上手くいけば自分から勉強をするでしょう。話を聞いて、肯定的に受け止めたけれど行動に変化がないような場合には、「疲れて(怒れて)るのに大変だけど、20分だけ頑張ってみよう」「もうすぐ寝る時間だから、頑張ってやってみよう」などという肯定的アプローチも必要です。
中には無視したり、「絶対にやらない」などという困った子もいます。話に応じようとしない子には、肯定的な言葉(「考えて選んだ行動なんだね」 「信じてるよ」 など)をかけておきましょう。手書きやスマホ(SNSなど)でメッセージを伝えても良いでしょう。
怒ったり怒鳴ったり、「好きにしなさい!」などを使ってはいけないとは言いません。時には有効なこともあります。ただ、それ一辺倒では「支配ー非支配」という関係性になってしまい、本人の意思が尊重されないため、多用するのは好ましくありません。大抵の場合、話をすれば分かり合えます。
この例はほんの一部であり、解決までのプロセスは数え切れないほどあります。しかし、共通しているのは、『アプローチをして反応によって、次の一手を考える』を繰り返すことです。
このように、地道な作業を繰り返して問題の解決、改善を目指すのが心理学の基本なのです。
人の心が分かるのか
冒頭の質問に返事をするなら、答えは『NO』です。超能力の類ではありませんので、人の心は分からないし、何を考えているのかも分かりません。
一言一言その言葉のもたらす効果を考えて会話をしているわけではないのです。もちろん相手の反応や動作、行動などで言葉を選びますが、それは感覚的なもので、こう言えばああなるとかは考えていません。個人的には、その場の空気や雰囲気は大事にしますし、相手の存在も大切にした関わりを心がけています。
心理学というのは、自分を含めた人間という存在を理解するための学問です。前述した通り、人間の心や行動について学び、それを生活場面で活用します。
心身の健康や知見としてはもちろんのこと、幸せや自信など何らかの形で人間のために貢献するのが本来の姿です。知識を他人に当てはめて自己満足するだけの学問ではないと私は思います。
心理学で学んだことをいかにして人間のために役立たせるか。抽象的ですが、心理学とはそういうものなのです。少なくとも私は「自己も含めた人間を理解し、幸せを得るためにはどうすればいいか」という考えで心理学の門を叩きました。
とてもすべては語り尽くせませんが、心理学に対するイメージを何となく感じていただけましたら幸いです。
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みなさんの生活場面に関わるテーマを中心に、少し学問的な内容も入ってくるかもしれません。考察部分に関しては個人の考えですので、その点だけご理解ください。
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